捨て犬 との思い出

捨て犬

今から数十年前、私が小学生だった頃、近所の空き地に数頭の犬が住み着いていました。誰かに捨てられてしまったのかもしれません。あまり人目に触れないその場所で、まだ子供の犬たちは身を寄せ合って暮らしていたのです。

ある日の学校帰りに偶然捨て犬の存在を知って以来、その空き地にほぼ毎日通うようになりました。小さな紙皿に学校給食で出た牛乳を入れてあげると、みんな一斉に飲み始め、あっという間になくなります。

そんな日々を過ごしてしばらくすると、数頭いる子犬の中から、1頭が頻繁に空き地から出てくるようになりました。飼い犬だった頃に嫌な思いをさせられたのでしょうか。遠くから「おいで!」と声をかけても、警戒心が強く全然近づいてきません。それでも声をかけ続けているうちに、警戒心が解けてきたのか、後をついて当時住んでいた家の前まで来るようになったのです。そして、背中を少しだけブラッシングさせてくれるまでに……。

その数週間後、今度はその犬よりも一回り小さな犬が空き地から出てきました。どうやら2頭は兄弟のようだったので、勝手に『にぃに』と『ちび』と名付けました。ちびはにぃによりも人懐っこく、私の姿を見るとすぐゴロンと仰向けになります。そして、軽くブラシをかけてやると、気持ち良さそうに目を細めました。

でも、傍から見ると、この犬たちは単なる野良犬でしかありません。この2頭以外にも何頭かいたので、その子たちが成長して吠えたりして近所迷惑になるのは時間の問題でした。とはいえ、団地住まいの私は子犬を連れて帰ることはできません。
これは、後で母から聞いた話です。私が学校に行っていたある昼間のこと、にぃにが大きく吠える声が聞こえて、外を見ると保健所のスタッフらしき人が数人いたそうです。近所の人が野良犬がいると保健所に連絡したのでしょう。警戒心の強いにぃには、一生懸命逃げたといいます。最後は麻酔薬を混ぜた餌を無理やり食べさせて、連れて行ったとか。ちびはその餌を食べず、保健所のスタッフに捕まることなく、どこかへ逃げたといいます。

捨て犬は、そのままずっと放置されるとやがては野良犬化し、人を傷つける恐れもあるため、保健所のスタッフが捕獲しに来るのは仕方がないことです。いい優しい人に引き取られ、天寿をまっとうできたかな……今でも時々あの2頭のことを思い出します。